お金の現在価値(Present Value)とは
我々が日々使っているお金。でも、同じ1万円でも「今の1万円」と「10年後の1万円」は、本当は同じ価値ではないことをご存じでしょうか?
えっ、1万円は1万円じゃん、と思うかもしれませんが、それはあくまで額面。価値は異なってきます。
この考え方をお金の現在価値(Present Value)と呼びます。
お金の現在価値とは
将来得られる収益を現在受け取れるとしたら、どれくらいの価値になるか
ということで、
将来手に入れると予想されるお金を、現在の価値に換算したもの
をいいます。
なぜ未来のお金の価値は下がるのか
理由はシンプルで、お金には「時間の価値」があるからです。
- いま1万円持っていれば、貯金して利息を得たり、投資して増やしたりできる
- 一方、10年後に手に入る1万円は、それまで使ったり増やしたりできなかった分だけ価値が低い
さらに、インフレ(物価上昇)も影響します。たとえば、いま1万円で買えるものが、10年後には1万2000円ないと買えないかもしれません。オーストラリアでモノの値段がよく上がっている実感があるかと思いますが、これがインフレです。つまり、未来の1万円は、今の1万円より「弱い」お金なのです。
例えば、今日牛丼が500円としましょう。1万円で20杯食べられます。この牛丼が10年後に千円になったとすると、10杯しか食べられなくなります。10年で牛丼の価値が上がり、お金の価値が下がったのです。
Time is Moneyです。
現在価値を計算してみよう
ちょっと学問的にこのお金の現在価値を見てみましょう。
1. 現在価値の基本式
まず、現在価値を求める基本式はこちらです。
PV = FV / (1 + r) ^ n
それぞれの記号の意味は次のとおりです。
記号 | 意味 |
---|---|
PV | 現在価値 (Present Value) |
FV | 将来価値 (Future Value) |
r | 割引率(年率、利率) |
n | 期間(年数など) |
つまり、未来の金額を「1 + 割引率」で年数分だけ割り引いたものが現在の価値になるということです。
2. 計算例で理解しよう
計算例で見てみましょう。
例1:1年後に1万円もらえる場合
割引率(年利)を2%とすると
PV = 10,000 / (1 + 0.02) ^ 1
計算すると:
PV = 10,000 / 1.02 = 9,804円
つまり、1年後に1万円もらえるという約束は、「今9,804円をもらう」のと同じだと言えます。
例2:5年後に5万円もらえる場合
今度は5年後、割引率を3%で計算してみます。
PV = 50,000 / (1 + 0.03) ^ 5
まず、(1 + 0.03) ^ 5を計算します。1.03の5乗です。
1.03 ^ 5 = 1.159274
なので、
PV = 50,000 / 1.159274 = 43,126円
つまり、5年後の5万円は、今の43,126円の価値しかないということになります。
3. 割引率(r)が高いとどうなる?
割引率が高いほど、未来のお金の現在価値は低くなります。
なぜなら、期待できる利回り(リターン)が高いなら、未来を待たなくても今すぐ運用して増やせるからです。
たとえば同じ1年後の1万円でも、
-
割引率2%なら → 9,804円
-
割引率5%なら → 9,524円
と、現在価値が小さくなります。
4. 未来が遠いほどどうなる?
年数(n)が長いほど、現在価値はさらに小さくなります。
これは直感的でも分かるかもしれません。
例えば同じ2%の割引率で、
-
1年後の1万円 → 9,804円
-
5年後の1万円 → 9,048円
-
10年後の1万円 → 8,203円
つまり、未来が遠ざかれば遠ざかるほど、お金の「今の価値」は目減りするのです。
未来は未来でしかない。だから、今の価値に置き換えて比べるのが重要なのです。
この現在価値の考え方は投資やローンなどで使います。
タックスリターンの返金も同じ
この考え方はタックスリターンの返金にも使えます。よくタックスリターンは返金ではなく支払いになるくらいの方がよいということがあります
これはどういうことかというと、タックスリターンの返金はボーナスでもなんでもありません。自分の収入から引かれた税金の過払い部分が戻って来るだけです。元々は給料など自分の収入から引かれていたものです。
例えば、収入から引かれ1年後に2,000ドル戻って来るとします。金利が4%とすると、上記の計算式から現在の価値PVは1,923ドルとなります。
1年後に戻ってくる2,000ドルの現在の価値は1,923ドルで、それなら収入から税金を引かれず今2,000ドル受け取り、後で税金を払う方がトクなわけです。今の2,000ドルの方が将来の2,000ドルより価値が高いからです。
タックスリターンで返金が多いと喜んでいるのは、国に自分のお金を強制的に預けられて損をしていた部分が戻って来ており、国に騙されているのです。
タックスリターンの仕組み【税理士解説】 – 返金と追加納税のメカニズムもご覧ください。
そのお金は今使えるから意味がある
上ではちょっと難しく数字の面からお金の現在価値を見てみました。しかし、これは感覚的に簡単に分かります。
明日、推しのアイドルのどうしても行きたいイベントがあるとしましょう。是が非でも参加したい。参加費は1万円とします。1か月後に1万円手に入るとしてもこのイベントには参加できません。今1万円がないと参加できないわけです。つまり、1か月後の1万円と今の1万円の価値が異なるのです。現在の1万円の価値は1か月後の1万円より低いため参加できないと言い換えることもできます。
そして、今1万円もらうか、1か月後に1万5000円もらうかの選択があるとします。ほとんどの方は1か月後に1万5000円もらう方を選択するでしょう。しかし、このイベントにどうしても参加したい人には今1万円をもらう方が価値が高いと言えます。この人の場合、1か月後の1万5000円より今の1万円の方がこの人にとっては価値が高いことになるわけです。つまり、1万円を今使えることに意味があるということなのです。
このお金の現在価値の考え方は目先の値段、料金だけに目が行ったり、インフレを考えずに現金を持っているといった視野が狭くなっている人には重要な考え方です。