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トラスト最低30%課税改正案で何が変わるのか

オーストラリアでビジネスや投資をしている方の中には、ビジネスや投資でトラストを使っている方もいると思います。

毎年の利益を、家族の収入や状況に合わせて分配する。この柔軟性が、Discretionary Trustの大きな特徴です。しかし、その税金の仕組みが大きく変わる可能性があります。

政府が提案しているのは、

Discretionary Trustに対する最低30%の課税。

導入予定は2028年7月1日、2029年度から。過去25年で最も大きな変更になります。

Introducing a Minimum Tax on Discretionary Trusts

2026年10月6日時点では、まだ法律として成立しておらず、これから説明するのは改正案であり、最終的な内容は変わる可能性があります。現在議論が進められています。

そもそもDiscretionary Trustとは

Discretionary Trustとは、

トラストの収入や資産について、誰に、どれだけ分配するかを、トラスティーがTrust Deedに沿って決められる仕組みです。多くはFamily Trustです。

Trustee(トラスティー)とは、トラストの管理、運営を担う人やカンパニー。利益分配を受ける人やカンパニーを、Beneficiary(ベネフィッシャリー)といいます。

例えば、夫婦と18歳以上の子供がベネフィッシャリ―になっているトラスト。

夫は給与収入が多い。
妻はパートタイムで働いている。
18歳以上の子供は大学生で、収入が少ない、全くない。

こうした個々の状況に合わせて、毎年の利益分配を検討できるわけです。

弊社のクライアント様でもビジネスの利益が100,000ドルもあるのに、一家で税金が毎年全員ゼロというケースがありました。

現在は、一般的に、分配を受ける権利を得たベネフィッシャリ―が、その収入を自分のタックスリターンに含めて税金を払います。ただし、未分配利益など、トラスティー側が課税される場合もあります。

なお、トラストの利益の分配はTrust Deedや分配の決議、ベネフィッシャリ―の権利などを確認して処理する必要があります。

今回の案では何が変わるのか

現在の仕組みでは、ベネフィッシャリ―の税負担が低ければ、トラストからの分配についても税負担が低くなる場合があります。

今回の案は、

トラストの利益に対して、トラスト側で最低30%の税金を確保する仕組みです。

個人などのカンパニー以外のベネフィッシャリ―は、その収入を個人のタックスリターンで申告し、トラスト側の課税に対応する税控除を受けます。

ただし、

この税控除は返金されません。

これが問題。

つまり、自分に適用される税率が30%より低くても、その差額は戻ってこないということです。これまで収入の少ない家族に分配していた場合などは、税金が増える可能性があります。

例えば、控除額が30,000ドルあっても、差し引ける税金が10,000ドルしかなければ、残りの20,000ドルが現金で戻ってくるわけではないということです。

この戻ってこない、が収入の少ないベネフィッシャリ―にとっては税金が増えることになり、大きな変更になります。

数字で見ると分かりやすい

仕組みを理解するために、かなり単純化して考えてみます。

トラストの利益が100,000ドル
トラスト側の最低税額は30,000ドル
個人のベネフィッシャリ―に対応する税額控除も30,000ドル

そのうえで、ベネフィッシャリ―がこのそれぞれの利益の分配について負担する税金を、仮に次の金額としましょう。

ベネフィッシャリ―側の税額の仮定 控除前の税金 使用する税額控除 ベネフィッシャリ―側の追加の税金 トラストとベネフィッシャリ―の合計
税負担が低い場合 $10,000 $10,000 $0 $30,000
最低税額と同額の場合 $30,000 $30,000 $0 $30,000
税負担が高い場合 $40,000 $30,000 $10,000 $40,000

これは税額控除の仕組みを示す説明用のシンプルな例です。実際の個人税率表を使った試算ではなく、Medicare levyなども含めていません。

最初のケースでは、本来の税金が10,000ドルでも、トラスト側では30,000ドルが課税されます。使いきれない控除20,000ドルは還付されません。

反対に、ベネフィッシャリ―側の税金が40,000ドルなら、30,000ドルを控除した残りの10,000ドルを払う、という考え方です。

つまり、30%を払えば必ずそれで終わり、という制度ではありません。

この表は、公表されている最低課税と還付されない税額控除の仕組みをもとに作成した概算例です。

自分の税率は30%だから大丈夫、とは限らない

ここは少しややこしいですが、大切です。

限界税率とは、収入が増えたときに、その増えた部分に適用される税率です。

課税収入全体に、その税率がかかるという意味ではありません。

税率が30%の区分に入っていても、それより下の課税収入には非課税枠や低い税率が適用されるため、課税される収入全体に対する税負担は30%より低くなることがあります。そのため、他の収入がほとんどなく、トラストの分配で30%の税率区分に入る人と、給与などですでにその区分に入っている人では、結果が違います。30%の区分にいるから影響なし、と判断するのではなく、給与、ビジネス収入、投資収入、各種控除を含めて、改正前後の税額を比較する必要があります。

見るべきものは税率だけではなく、実際にいくら払うことになるかです。

カンパニーに分配している方も要確認

トラストの利益を受け取るためのカンパニーを、一般にBucket Companyと呼ぶことがあります。

今回の案では、カンパニーベネフィッシャリ―には、トラスト側の最低課税に対応する税額控除を認めないとされています。

個人への分配と同じように、カンパニーの税金からトラスト側の税金を差し引けるわけではありません。そのため、カンパニーへの分配は税負担が大きく増える可能性があります。

ただし、ここで30%とカンパニーの税率を足せば答えが出る、と考えるのも早すぎます。

課税対象額や分配の処理、カンパニー側の状況まで確認する必要があります。

カンパニーへの分配を使っている方は、今の方法を続けた場合と、別の仕組みにした場合を、具体的な数字で比較することになります。

すべてのトラストが対象になるのか

すべてのトラストに、一律でこの最低税がかかる案ではありません。

  • Fixed Trust
  • 一定のスーパーアニュエーション
  • Special Disability Trust
  • 遺産管理中のDeceased Estate

などは、対象から除外する仕組みが示されています。

収入についても、農業などのPrimary Productionの収入や、一定の条件を満たすエステイトトラストの収入などに除外が設けられています。

ただし、名前だけで判断しないでください。

「うちはUnit Trustだから大丈夫」
「相続に関係するトラストだから大丈夫」

と決めつけず、Trust Deedやベネフィッシャリ―の権利、収入の内容が条件に合っているかを確認する必要があります。

今後の主な選択肢は3つ

1 今のトラストをそのまま続ける

新しいルールを受け入れながら、現在のトラストを使い続ける方法です。

税金が変わるからといって、必ずトラストをやめる必要があるわけではありません。

税負担の増加が小さい場合や、資産を移す費用が大きい場合には、維持するほうが合理的なことも考えられます。

まず、今の仕組みを続けるといくらになるか。それを計算しなければ、他の選択肢とも比較できません。

2 カンパニーや別の事業形態、保有形態へ移す

カンパニーなど、別の形態へ資産やビジネスを移す方法です。ビジネスに関しては、これが現実的で一番おすすめ。

このための移行措置として、

2027年7月1日から2030年6月30日までの3年間、条件を満たす形態変更についてロールオーバーを認める案

が出ています。

ロールオーバーとは、対象となる資産移転について、その時点での税金やキャピタルゲイン税の課税を繰り延べる仕組みです。将来の利益に対する税金まで、永久になくなるという意味ではありません。

また、ロールオーバーがあるなら、無料で移せるという話でもありません。

不動産があれば州のスタンプデューティ、ローンがあれば金融機関の手続き、ビジネスであれば契約やライセンスなど、税金以外の確認も必要です。国の税金上の救済だけで、これらすべてが解決するわけではありません。

3 分配先と割合を固定する選択を行う

もう一つが、Excluded Election Trust、略してEETという選択制度です。

案では、2028年7月1日に存在する対象トラストについて、原則として2029年度に選択を行う仕組みが示されています。

誰に分配するかだけでなく、収入と元本、資産の割合も指定します。合計は100%で、それぞれのベネフィッシャリ―について収入と元本の割合を一致させる必要があります。

例えば、夫50%、妻50%と指定した場合、その割合に沿って分配を続けることで、最低税の対象外となることを目指す制度です。

ただ、今は夫婦で半分ずつがよくても、10年後、20年後まで同じとは限りません。

  • 退職する。
  • 子供が成長する。
  • 家族構成が変わる。
  • 家族の収入が変わる。
  • ビジネスを売却する。

将来の状況まで考えて決める必要があります。

この選択は取り消すことができますが、取り消した後に再び選択することはできない案です。また、指定した分配と違う処理をすると、自動的な取消しや不利な税務上の扱いにつながる可能性があります。指定内容の変更も、死亡や関係破綻などの限定された場合に制限されています。

固定すれば30%を避けられると、その部分だけを見て決めるべきものではありません。

今のうちに整理しておきたいこと

すぐに資産を動かすより、まず現状を整理することです。

  • トラストには、どんな資産と借入があるか
  • 毎年、誰にいくら分配しているか
  • ベネフィッシャリ―には、トラスト以外にどんな収入があるか
  • カンパニーへの分配を使っているか
  • 資産を売ったり移したりする場合、どんな費用が出るか
  • 将来、ビジネスや資産を誰に引き継ぎたいか

これが分かれば、現在のトラストを続ける場合、別の形態へ移す場合、分配を固定する場合を比較できます。

今はよくても、将来の売却や家族への引継ぎで負担が大きくなるなら、その選択がよいとは限りません。

  • 税制は変わります。
  • 家族の状況も変わります。
  • ビジネスも変わります。

だから、作ったときによかった仕組みが、ずっと最適とは限らないのです。

今回の改正案は、自分のトラストを見直すきっかけになります。

今慌てて変更する必要はありません。ただ、決まってから何も分からずに動くより、今のうちに数字を整理し、選べる方法を確認しておく。その準備が、後の判断を楽にします。

ややこしい分野で全ての税理士が対応できません。カンパニーへの変更やこのトラスト税制変更については弊社までお問い合わせください。